秋の街 吉村昭 文春文庫
□マイブックミシュラン(星最大5つ)
読みやすい ☆☆☆☆
心にひびく ☆☆
発見がある ☆☆
ビジネス書 ☆☆
人生ヒント ☆☆☆
□しおり
一人が綱を樹木の枝にかけ、それをひいて幹にしばりつけた。猫は宙吊りになり、暴れはじめた。和夫は、頸部を圧迫されて啼声も立てられぬ猫がすぐに息絶えるにちがいないと思ったが、猫は予想に反して体を動かしつづけている。見守る友達は笑いながらながめてはやし立てていたが、いつの間にか黙しがちになった。猫の動きは変わらず、絶えず脚をはね上げさせ、時折り激しく乱れる。友達の顔から笑いの表情が消え、眼にも不気味なものを前にしているおびえの色が濃くなっていった。和夫も、猫の生命力の強さに恐れを感じた。(P83[雲母の柵])
□ブログ管理者評
7篇の短編小説を収めた本著。そのどれもが淡々と話が進められていく。監察医務院や動物実験研究用マウス飼育員など特殊な背景設定にも関わらず、だ。そこには死が横に寝そべっており、その死は誰にも訪れるもので、サラリーマンだろうが花屋だろうが漁師だろうが変わらない。それが淡々とした印象を与えているのだろう。劇的なドラマではなく、いつの間にか細胞と細胞の隙間にジクジクと染みこんでくるような小説である。
□内容紹介
秋の街、帰郷、雲母の柵、赤い眼、さそり座、花曇り、船長泣く、の7篇
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□作者プロフィール
1927年、東京生まれ。学習院大学中退。66年「星への旅」で太宰治賞を受賞。73年一連のドキュメンタリー作品の業績により第21回菊池寛賞を受賞する。他に「ふぉん・しいほるとの娘」で吉川英治文学賞(79年)、「破獄」により読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞(85年)、「冷い夏、熱い夏」で毎日芸術賞(85年)、さらに87年日本芸術院賞、94年には「天狗争乱」で大佛次郎賞をそれぞれ受賞。97年より芸術院会員。2006年7月31日永眠。
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