北国の春 井上靖 講談社文庫
□マイブックミシュラン(星最大5つ)
読みやすい ☆☆☆☆
心にひびく ☆☆
発見がある ☆☆☆
ビジネス書 ☆☆
人生ヒント ☆☆☆
□しおり
「よせ、帰るのは」大植はこの時自分は到底この若い女を手離せないと思った。「契約のばします?もう一年」「うん」すると、みさ子は顔をうつむかせて一つ大きく横にふると、「停めて下さらなかったら、わたしいま、本当に居坐ろうかと思ったんです。でも、停めてくださったから、わたし帰ります」
□ブログ管理者評
まじめな人間ほど、ドラマにしにくいものはない。しかし著者はドラマになりにくいようなまじめな人間やひたむきに生きてきた人間を題材にした。しかもそこには予想を超えたドラマが描かれているのである。自分の娘ほどの若い女が朝隣りに寝ていたり、かつて結婚まで考えていた女性が友人との結婚を選んだがじきに亡くなっていたことも知らず友人を敵愾し続けていたり、酔ったはずみで女性との交渉を一年間契約する約束をしたり、ほんの少し踏み外したがために劇的なドラマが生まれるのは、著者の深い人間洞察によるものに他ならない。
□内容紹介
青春の頃、恋人を奪われた男が、25年ぶりにその友人に再会して知った新事実と、長い間旧友に燃やし続けた敵愾心の真因を悟る「北国の春」、男手一つで育てた一人娘を嫁がせた父親が、旅先で、おきゃんなホステスにその孤独を癒される「凍れる樹」など、人間の深層にひそむ心の動きを鮮やかに描いた傑作9編。
井上靖(いのうえやすし)
1907年(明治40年)北海道上川郡旭川町で、軍医井上隼雄と八重の長男として生まれる。1964年(昭和39年)、『風濤』(群像)により第15回読売文学賞を受賞。
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